1:更年期障害

(1)更年期障害とは
 女性ホルモンの分泌が急激に減少し、ホルモンバランスが乱れるために起こる更年期障害。
 閉経の前後に相当する45〜55歳頃の約10年間に現れる身体の不快な症状を更年期障害といいます。
 更年期を迎えると、卵巣機能が衰退し、女性ホルモンのひとつである卵胞ホルモン(エストロゲン)の量が徐々に低下していきます。
 更年期障害とは、このホルモンの量の変化に身体が慣れるまでの間に、様々な不快な症状が出ることをいい、熱感(ほてり・のぼせ)、発汗、不眠、頭痛、うつ症状などがあります。

 

(2)女性の体の年齢に伴う変化
@閉経前の女性のホルモン分泌
 閉経前の女性の身体では、卵胞ホルモン(E:エストロゲン)と黄体ホルモン(P:プロゲステロン)の二種類の女性ホルモンが、下の図のように周期的に分泌されています。
 つまり、月経から排卵までの前半は卵胞ホルモン(赤色)、排卵から月経までの後半は卵胞ホルモンと黄体ホルモン(青色)の両方が分泌されます。

A女性のホルモンの働き
 毎月、卵巣が規則的に変化することによって、女性ホルモンも周期的に分泌されることがお分かりになると思います。
 1)女性としての、組織や細胞の機能を維持します。
 
 2)骨にカルシウムを貯めて、骨を丈夫にします  
 3)善玉コレステロールを増やし、悪玉コレステロールを減らします 
 4)脳の代謝の維持に関係しているといわれています
 5)黄体ホルモン(P)は、基礎体温を上昇させる作用をもっています。
    そのため、排卵が終わった後半期に、基礎体温は上昇(青色)します。
B更年期による変化
  更年期では、この女性ホルモン(特に卵胞ホルモン)の規則正しい分泌が、閉経とともになくなってしまいます。
 更年期には、女性としての機能を保ってきたエストロゲンが、どんどんなくなっていくわけですから、大変に多くの影響が出てしまうのは当然のことなのです。

 いわゆる更年期症状は、自律神経失調症と、かなりの部分がオーバーラップしています。
 自律神経は身体の安定を保つために、脈拍や、血圧、さらには発汗などによる体温調節や腸の動きに至るまで、ありとあらゆる機能を調整しています。
 しかもこの神経は自分の意識とは関係なく、まさしく"自律"して働き続けています。
 この自律神経をコントロールしているセンターは、脳の下にある視床下部(ししょうかぶ)と呼ばれる器官にあります。
 ところで、先ほど説明した卵巣の規則的な変化は、どこがコントロールしているのでしょうか。
 実は、このホルモンのセンターも同じ視床下部にあります。
 さらには、喜怒哀楽など感情を調整しているセンターもこの視床下部にあります。

 この三つのセンターは、密接に影響しあいながら働き続けています。
 更年期に卵巣機能が落ちてホルモンのセンターが乱れると、自律神経はもちろんのこと、感情までもがアンバランスになってしまうのは当たり前のことかも知れません。
 つまり、"更年期症状"は「エストロゲンが減ってしまうためにおこる自律神経失調症」といえます。

(3)更年期の始まる時期
 まず、40代半ば、月経異常が続いて気づく人がほとんどです。
 そして、いわゆる「更年期症状」(不定愁訴)が、まず閉経のころから出現します。
 その後1〜2年すると、外陰部や泌尿生殖器の不快感が出てきます。
 それから10年ぐらいたって、更年期も忘れたころに、思いがけず、"骨粗鬆症"や"動脈硬化症"が病気として出現してきます。
     月経異常−−−更年期症状1−−−閉経−−−更年期障害の諸症状2

           |前期→閉経↓←閉経後期|→老年期
            |←   
更年期    →|
年齢40 50 60 70 80 90才
          月経異常(頻発月経・機能性出血)
          ←――――→
            自律神経失調
           ←―――――→
                      精神神経症状
               ←――――――――→
                      尿生殖器のいしゅく症状(老人性膣炎・外陰掻痒症・尿失禁・性交障害)
                     ←――――――――――――――――――――――
                                  心血管系疾患(動脈硬化・高血圧・冠不全・脳卒中)
                        ←――――――――――――――――――――
                            骨粗しょう症
                        ←――――――――――――――――――――



@月経異常
 45歳ぐらいまでは、約80%の方の月経周期は規則的です。(緑色)
 その後、閉経する方(青色)は急速に増え、50歳では約40%、55歳ではほぼ全員になります。
 つまり、50歳を中心に45歳から55歳までが、平均的な閉経年齢と考えられています。また、閉経する前に月経が不順になる方(黄色)も多いことがわかります。
A更年期障害発現の時期
 更年期が始まる年齢には個人差がありますが、最も多い閉経年齢が50歳ですから、45歳前後がひとつの目安となります。
 閉経年齢が早いか遅いかは、遺伝的要因や初経が早かったから閉経も早いなどということとまったく関係ありません。
 しかし、離婚や仕事のストレスなど、環境因子によって40歳より前に閉経を迎えるケースもあります。
 閉経の徴候として最も多いのが月経異常です。
 月経周期が早まったり、遅れがちになったり、間隔がばらばらになったり、月経の持続日数も2〜3日のときもあれば、2週間も続くケースもあります。月経量は減る人もいれば、増える人もいます。
 40代半ばになって、月経異常が続いたら「そろそろ更年期に入ったかな」と考えてよいでしょう。
 ただし、子宮がんによる不正出血なのか、子宮筋腫、甲状腺や下垂体の病気による月経異常なのか区別がつきませんから注意が必要です。
 月経異常と前後して、突然に顔がカーッと熱くなったり、手足の冷え、発汗、動悸、不眠、イライラなどの症状に悩まされる人も多くなります。

(4)更年期障害の緒症状
 さまざまな症状が出現しますが、「更年期症状」が、閉経に前後してまず現れ、続いて外陰部炎や尿道炎など「泌尿生殖器の障害」が現れます。
 そして、更年期症状もやっと落ち着いた約10年後、図らずも「骨粗鬆症」や「高脂血症」が出現してきます。
更年期症状(不定愁訴) 閉経前後の数年間
泌尿生殖器の不快感 閉経から、1〜5年
骨粗鬆症 閉経から、約10年
動脈硬化症(高脂血症) 閉経から、約10年

@更年期症状
 医学的には、「更年期におこるものの中で、一般的な診察や検査所見では異常が見つからない自律神経失調症を中心とした不定な症状を訴える状態」とされ、「更年期症候群」とか「更年期不定愁訴(不特定な訴え)」などとも呼ばれています。
 「女性ホルモンの不足によっておこる自律神経失調症」と考えられます。
 この中でも、のぼせ、発汗などの血管運動神経障害による症状は卵巣機能の低下(エストロゲンの低下)をよく反映し、診断の重要な指針となります。
 更年期障害のうちの一つですが、狭い意味で更年期障害という場合は、この更年期症状(不定愁訴)をさすことが多いようです。
血管運動神経系 ほてり、のぼせ、動悸、異常な発汗、冷え
知覚系、運動器系 しびれ、腰痛、肩こり、関節痛...
精神神経系 頭痛、めまい、耳鳴、不眠、不安、憂うつ...
消化器系 悪心、嘔吐、食欲不振、便秘...
外分泌系 口腔や外陰部の乾燥感...
泌尿器系、生殖器系 頻尿、排尿時痛、外陰部のかゆみ、不正出血
その他 全身倦怠感、腹痛、むくみ...

A性器症状
 ホルモンの分泌が少なくなるにつれて、性器に萎縮が起こってきます。
 その結果、萎縮性膣炎や老人性腫炎といわれる炎症が起きて、黄色いおりものが多くなったり、ときには、おりものに血がまじったりすることもあります。
 また、痛くて性交がうまくいかなくなるのも、性器が萎縮して炎症を起こしてくるからなのです。
 ときには、外陰部がかゆくなったりすることもあります。
 更年期出血ともいわれるもので、ときならぬときに出血をみることがあります。
 子宮ガンではないかと心配になるのもこの種の出血です。
 女性ホルモンの欠乏は、性器だけではなく、骨盤内の勒帯や膀胱粘膜などの弾力性もなくしてしまい膀胱脱、直腸脱、子宮脱を起こす原因になります。ま
 た、排尿回数がふえたり、膀胱炎症状を起こしやすくもなります。

B骨粗相症
 五十歳頃から、骨折を起こす女性の数が増加しています。
 もちろん全ての女性に当てはあるのではありませんが、更年期までに十分な骨量の蓄えのない女性では、閉経後さらに急激に骨量が減少して、骨折を起こす危険性が多くなります。
 骨粗鬆症にかかる率が、五十歳頃から増えだすことを重ね合わせると、骨粗鬆症による骨折が相当に多いのではないかと心配になります。
 骨量は、二十歳代後半から三十歳代中頃にかけて最大になりますが、その後は加齢とともに緩やかに減少してきます。
 骨の代謝にはいくつかのホルモンやビタミンDなどが関係していますが、女性の場合、カルシウムを有効に使い、骨量を増し、維持するために女性ホルモンが重要な役割を果たしていました。
 ところが閉経期を迎え、女性ホルモンが減少すると、カルシウムを効率よく吸収し、新しく骨をつくる材料として使用することができなくなりますので、骨の形成と吸収のバランスがマイナスに傾いてしまいます。
 骨粗鬆症では、骨からカルシウムやリンが抜け、スが入ったようにすかすかの状態になります。症状が進むと、腰や背中の痛め、だるさを感じますが、ちょっとしたことで骨折しやすくなるのです。

C高脂血漿(動脈硬化症)

 高脂血症とは、血液の中の脂質が病的に多い状態をいいます。
 いろいろな基準があるのですが、総コレステロールが220から240mg/dl以上中性脂肪が150mg/dl以上といったものが一応の目安になっています。
 最近では、脂質の中でも問題となる悪玉コレステロール、つまり LDLコレステロールを直接測る方法も開発され使われるようになってきました。
 高脂血症はこのような変化を誘発することによって、高血圧や虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患)、脳卒中(脳梗塞や脳出血)などを引き起こすと考えられています。
日本動脈硬化学会「高脂血症治療ガイドライン」
総コレステロール LDLコレステロール HDLコレステロール
目 標 値  220 mg/dl 未満 140 mg/dl 未満 40 mg/dl 以上


(5)更年期障害の判定
 診断には一般的に、クッパーマン指数、簡略更年期指数などが用いられます。 
 これは更年期症状の各症状を点数化した指数表で、その合計点数を出して更年期障害を判断するものです。
 また、エストロゲンなどのホルモンも測定されます。
診査項目
      症  状 ×
1 顔がほてる 10 6 3 0
2 汗をかきやすい 10 6 3 0
3 腰や手足が冷えやすい 14 9 5 0
4 息切れ、動悸がする 12 8 4 0
5 寝つきが悪い、眠りが浅い 14 9 5 0
6 怒りやすく、イライラする 12 8 4 0
7 くよくよしたり、憂うつになる 7 5 3 0
8 頭痛、めまい、吐き気がよくある 7 5 3 0
9 疲れやすい 7 4 2 0
10 肩こり、腰痛、手足の痛みがある 7 5 3 0
合計
          ◎ … よく当てはまる  ○ … まあまあ当てはまる   
          △ … どちらとも言えない
 × … 当てはまらない
      
診査結果
0〜25 上手に更年期を過ごしています。
これまでの生活を続けていいでしょう。
26〜50 食事、運動などに注意をはらい、
日常生活などでも無理をしないようにしましょう。
51〜65 医師の診察を受け、生活指導、カウンセリング、薬物療法を受けた方がいいでしょう。
66〜80 長時間(半年以上)の計画的治療が必要でしょう。
81〜100 各科の精密検査を受け、更年期障害のみである場合は、専門医での長期計画的治療が必要でしょう。
               参考URL:更年期簡略指数(小山麻生1992)



(6)更年期障害の治療
 更年期障害の治療には 1)生活様式の改善 2)カウンセリング 3)薬物療法などがあります。

@生活様式の改善
 簡単な体操、自立訓練法、音楽療法など、心身ともにリラックスできる生活法など賀重要になります。
 特に食生活の改善が必要と成ります。
 
 1:食生活
 食生活エストロゲンが減少するということは、これらのはたらきを食生活などでカバーする必要が出てくるということなのになります
 具体的に、次の事に気をつける必要が有ります。
      カルシウムを十分に摂る。
      コレステロールを控えた食事をする。
      塩分を控え、動脈硬化の予防に努める
 2:禁煙
 たばこは老化を早め、動脈硬化の原因になるので禁煙をおすすめします。

Aカウンセリング
 不安やうつ状態、不眠などが強い場合や心理的な問題が症状を悪化させている場合などは心のケアを行います。
B薬物療法
 ホルモン補充療法(HRT)と漢方療法、自律神経調節剤・向精神薬の3つが中心。
1)ホルモン補充療法(HRT)
 1:HRTとは
 更年期障害の症状は女性ホルモンが不足してしまったために起こります。
 その分を外から補充してあげるのがホルモン補充療法です。
 HRTとは、Hormone Replacement Therapy (ホルモン・リプレ−スメント・セラピ−)の頭文字をとったものです。
 年齢とともに卵巣の機能が低下し、エストロゲンが不足してしまったために、起こる女性の身体のアンバランスを出来るだけ軽減するのはもちろんのこと、更年期障害と密接な関係にある病気の予防にも役立っているのです。

 2:HRTの効果
 更年期障害の症状として代表的なのぼせや発汗を、3ヶ月後には90%減少させる
 大腿骨頸部骨折を25%、脊髄骨折を50%減少させ、冠状動脈疾患を35%減少させるといわれています。
 HRTは、欧米ではすでに40年近く行われており、更年期障害の症状のみならず、心臓血管系の障害や骨粗鬆症に対する治療法としても十分確立されています。

 3:心配される副作用
 主な症状は、乳房の痛みや、子宮出血などです。
 その他には、頭痛、吐き気、腹部膨満感、おりものなどがあります。
 これらは、ホルモンを減らしたり、投与方法を変更したりすることによって、ある程度はコントロール出来ます。
 4:使用される薬剤
 国内で更年期障害に使用される薬剤は、3種類です。
 経口剤(飲み薬)として、結合型エストロゲンエストリオールがあり、
 経皮剤(貼り薬)としてエストラジオールが用いられます。

 5:治療開始の時期は?
 更年期女性に対してHRTをいつから開始するかについては必ずしも一致した意見はありません。
 主に以下のような基準でHRT投与が開始されます。
 更年期障害の出現時
 更年期障害の出現を目安に開始します。
 閉経前であれ閉経後であれ、ほてりやのぼせ、冷え等の更年期症状が出現すれば、まずその治療の目的に投与を開始します。
 閉経時
 閉経をHRT開始時期とします。
 月経異常の出現時
 閉経前の月経異常(稀発月経、頻発月経、更年期出血)の出現を開始時期とします。
 月経異常が現れるということは、卵巣機能の低下が始まっているということです。
 骨量の減少や脂質系の異常はこのころから始まるとされていますので、その予防のためにHRTを開始します。
どれくらいの期間つづけるの?

 6:HRTの治療期間
 HRTをどれだけの期間続けるのか?についても一定の見解を得るには至っていません。
 更年期障害の治療として用いるか?骨粗鬆症や心血管疾患の予防に用いるか?によって投与期間は変わってきます。
 前者の場合では2〜3年間が妥当 とされています。
 後者の場合は長期間の投与が必要であり、10〜15年間以上の投与が望まれると言われています。

2)漢方薬

 漢方薬はホルモンや自律神経の乱れを整え、不快な症状を和らげるのに大変効果的です。
 また、乳ガンや子宮内膜症の手術をして、ホルモン剤が使えない人には漢方薬が強い味方になります。
 例えば、「のぼせ」という症状を治す西洋薬はありません。
 しかし漢方薬には、たくさんの処方があります。
 代表的なものが桂枝茯苓丸です。
 この処方は、「冷えのぼせ」を治し体の中で停滞した血の流れをよくするものです。生理の出血時に塊が出て、上半身はのぼせ・下半身は冷えるなどの症状を持つ人によく使われます。
 そのほかには、当帰芍薬散 (虚証例),加味逍遥散または桂枝茯苓丸(虚証例以外)が代表的です.
 漢方薬による治療は、更年期障害が各種の症状が見られることから、単一の処方よりも複数の処方を組み合わせることが多くなります。
 専門医の意見に従って内服することをおすすめします。
3)その他
 上記の方法で改善が不十分な場合に精神安定薬,抗うつ薬,睡眠薬,末梢循環改善薬などが使われます.


2:女性器カンジダ症








        
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