1 放射線診断と被曝
1:X線撮影(医科)
原理
通常の方法
エックス線を目的の物質に照射し、透過したエックス線を写真乾板・写真フィルム・イメージングプレートなどの検出器で可視化することで、内部の様子を知る画像検査法の一種。

最も一般的に知られているX線撮影では、X線照射装置とフィルムの間に体を置き、焼き付けて画像化する。
X線は感光板を黒く変色させるため、体がX線を通過させた部分では黒く写り、体がX線を阻止した場合には、その部分が白く写る。

CR(コンピューテッドラジオグラフィー)
感光剤を塗りつけたフィルムの代わりにIP(イメージングプレート)を使う方法。

直接撮影と間接撮影
直接撮影
人体とフィルム面がほぼ密着した状態で撮影する方法。
ことにより被写体(撮影される人)の幾何学的ボケを少なくし、肺の状態を鮮明に写しだす事が出来るため、間接撮影に比べて少ないエックス線量で撮影することが出来る。
被ばく線量0.06mGy

間接撮影
ミラーカメラを使用し、人体を通り抜けたエックス線を蛍光板で受け止め、目に見える光に変えてロールフィルム(10cm×10cm)に写し込む撮影法。
直接撮影に比べて、光がレンズを通るためにエックス線の量が多く必要で被爆する量が少し増える欠点がある
被ばく線量0.3mGy
ロールフィルムの為、一度の現像で多くの被写体を観察できるため、住民検診や学生など対象者が多い検診に向いている。

直接撮影と間接撮影の比較
①X線像
間接では撮影距離が短いため、どうしても像が10%前後拡大する。
また、レンズなどの撮影で周辺部の解像力が低下し、周辺部の肺紋理が減少してしまう(表2※1)☆被曝線量 撮影条件等で大きく違ってくるが、結核研究所で直接、間接撮影の被曝線量を測定した結果、 直接に対し間接はおおよそ1.5~2倍の線量比である。
②単位時間当たりの撮影枚数

間接撮影の方が1.5~ 2倍多く処理できる。
③X線写真の読影
直接フィルムの場合1枚ずつのフィルムになって おり、読影時にはフィルムをシャーカステンに掛けながら読影するため、相当の労力と時間がかかって しまう。その点、間接フィルムの場合はロールフィルムになっており、一定時間に多人数の読影ができる。
④フィルムの保管
直接フィルムはスペース と重量を考えて保管場所を設けなくてはならず、これは結構大きな間題となっている。
その点、間接フィルムの方はロールフィルムになっており、スペースも重量もそれほど気にしなくてすむ メリットがある。 
⑤比較まとめ
以上のように、間接撮影は3~5ミリという極めて小さい病巣の発見能力等でやや劣るものの、 上述した条件から、集団検診では現在のところ間接撮影の方が優れているといえる。

各種のX線撮影
単純X線撮影
造影剤を使わない通常のX線撮影。
撮影部位により以下の種類がある。
   頭部X線
      最近ではCTが第1選択とされるため、撮影機会が減った。

   胸部X線(Chest X-ray : CXR)
      肺癌、肺炎、結核、胸水、気胸などの肺病変の診断に利用されている。

   腹部X線(Abdominal X-ray : AXR)
      腸閉塞や腹水、腹腔内、胆石、尿路結石の空気の様子を診断するのに利用される。

   外傷のX線写真
      四肢の骨折の検索で撮影される。

   歯科用のX線撮影
      歯は骨以上に石灰化が進んだ組織であり、歯科診療の領域では頻繁に利用される。
      (詳細は、「歯科医療と放射線」

断層撮影法
被写体で、フィルムに平行な断層面を撮影する方法である。
三次元的な構造である被写体の障害となる他の面をぼかして、特定な面の情報だけを得ることができる。

造影X線撮影
X線を通さない造影剤(バリウムなど)を経口・経静脈的に投与したのちに撮影することで、普通は描出されない消化管や血管の様子をも描出できる。

X線透視
X線を連続的に照射し、テレビモニタを通じて映像を観察する。
被曝量は多くなるが、病変によっては診断や治療に必要となる。

X線撮影による被曝量
単純撮影被曝ガイドライン
社団法人日本放射線技師会による「医療被ばくガイドライン2006(低減目標値)」より
      単位=mGy
撮影部位(撮影方向)
日本放射線技師会放射線診療における低減目標値(mGy)
IAEAガイダンスレベル

(mGy)
頭部(正面)
頸椎(正側面) 0.9
胸椎(正面)
胸部(正面) 0.3 0.4
腹部(正面) 10
腰椎(正面) 15 10
骨盤(正面) 10
股関節(正面) 10
大腿部
膝関節 0.4
足関節 0.3
前腕部 0.2
手指部 0.1
乳房撮影

造営撮影、X線透視(消化管検査)
消化管検査は、透視を伴う検査であるために、透視の時間が術者や患者によって異なり、被ばく線量が大きく異なってくる。
しかし、被曝による影響を心配するよりも、消化管の腫瘍などを早期に発見し、早期治療を受けることの方がメリットが大きいと考えられる。
上部消化管X線検査

上部消化管X線検査のガイドライン2006(低減目標値)
撮影装置方式別 透視線量 撮影線量 1検査あたりの線量
直接撮影 70mGy 30mGy 100mGy
間接撮影 40mGy 10mGy 50mGy

上部消化管検査時の患者被曝線量(mGy)
甲状腺 赤色骨髄
(男性)
赤色骨髄
(女性)

(男性)

(女性)
生殖腺
(男性)
生殖腺
(女性)
乳腺 胎児
0.07 1.17 1.14 5.32 4.76 0.004 0.45 0.53 1.1

注腸検査

注腸検査のガイドライン2006(低減目標値)
撮影装置方式別 透視線量 撮影線量 1検査あたりの線量
直接撮影 150mGy 50mGy 200mGy
DR撮影 100mGy 20mGy 120mGy
CR撮影 60mGy 40mGy 100mGy

注腸検査時の患者被曝線量(mGy)
赤色骨髄
生殖腺
(男性)
生殖腺
(女性)
胚芽/胎児
8.2 1.14 16 6.8



2:歯科用X線撮影
各種の歯科用X線撮影
詳細は、「歯科医療と放射線」

詳細は、「歯科医療と放射線」


3:CT (コンピュータ断層撮影 )
原理
検査対象の周囲を線源と検出器が回転し、検査対象はX線を全方位から受け、照射されたX線は検査対象を通過し、対象に一部吸収されて減衰した後、線源の反対側に位置するX線検出装置に到達し記録される。
それぞれの方向でどの程度吸収されたかを記録したのち、コンピュータで画像をフーリエ変換で再構成する。

各種のCT
単純CT
造影剤を使わずに撮影を行うものを単純CTと呼ぶ。
一般的なスクリーニングとして用いられる場合が多い。検査の目的によっては造影が逆効果であるため、積極的に単純CTが選択されることもある。

キセノン(Xenon )CT
主に脳血流評価等において行われており、非放射性キセノンを吸入しながら撮影する方法。

造影CT(contrast enhanced CT; CECT)
X線吸収率の高いヨード造影剤を血管内(通常は四肢の静脈内)に注射してから撮影を行う方法。
造影剤は注入された後、血流に沿って全身の血管に分布し、さらに毛細血管からの拡散によりゆっくりと血管外の細胞外液にも移行し、各種臓器の実質を染める。
血管内や、血流が豊富な組織が濃く(白く)描出され、画像のコントラストが明瞭になり、より詳細な観察が可能となる。
撮影の目的によって、造影後いずれのタイミングで撮影するべきかが異なる。
大まかにいえば、血管の評価が主な目的であれば早期相(注入開始後15秒 - 30秒)での撮影が、臓器の評価が目的であれば門脈相ないし遅延相(注入開始後80秒以降)での撮影が適する。
造影剤の注入速度や造影剤のヨード濃度も検査の目的によって様々に選択される。
CT用ヨード造影剤として、イオヘキソール (オムニパーク)、イオパミドール (イオパミロン)、イオメプロール (イオメロン)、イオペルソール (オプチレイ)などが用いられる(かっこ内は日本国内での商品名)。

Dynamic CT
造影剤を急速静注(毎秒3mL以上)し、各時間ごと(多くは動脈相 平衡相 静脈相)のタイミングで同じ部位を反復撮影する方法。

CT血管撮影(CT angio)
造影剤を急速静注し、動脈内の造影剤濃度が最も高くなるようなタイミング(動脈相)でCTを撮影することで、冠動脈等の血管走行を明瞭に描出する撮影方法。
動脈瘤等の動脈疾患の診断に用いられる。特に3次元レンダリングとの親和性が高い検査方法である。

IVR-CT
カテーテル検査の最中に、動脈や静脈に直接造影剤を注入しながらCT撮影を行うもの。
狙った血管や臓器のみを強く造影することができ、正診率が高まることが期待される。
施設によってはIVR-CT専用のCT装置がカテーテル検査室内に併設されていることもある。

CTによる放射線被曝
CTによる被曝放射線量
CTによる被曝線量は各種放射線検査のうちで、やや多い方に属する。
被曝量は検査部位や検査方法、機器の性能や設定によって異なるが、検査によっては1回で数十mSv - 100mSvを超えるX線被曝を受けることもある。

①X線CT 成人ガイドライン2006 (社団法人日本放射線技師会 医療被ばくガイドライン(低減目標値))
検査部位 CTDIvol (mGy)
頭部 65
腹部 20

②部位別平均実効線量とその比較(株式会社日立メディコ MEDIX VOL.5)
検査部位 CT被曝量(mSv)
対胸部X線撮影 対年間自然放射線被曝
頭部 1.89 63倍 0.79倍
頸部 0.91 30倍 0.38倍
胸部 1.09 36倍 0.45倍
腹部 2.98 99倍 1.24倍
骨盤 2.98 133倍 1.67倍
腹ー骨盤 4.00 157倍 1.96倍

一般的に、診断用CTの一回被曝量は7~20mSVと報告されている場合が多い。

被曝の影響
一般的に、放射線による健康被害のうち、確定的影響(とされる急性期の放射線障害がCTで起こる可能性は皆無である。
つまり白血球減少・脱毛・吐き気などが数週間のうちに起こる可能性はない。
CTで問題となるのは、数か月から数十年後に初めて顕在化してくる悪性腫瘍のリスクの増加、あるいは子孫への遺伝的影響である
どんなに少量の被曝であってもリスクはゼロにはならず、少量の被曝なりに少量のリスクが存在するものと“仮定”されている。

また、妊婦の場合は発癌以外に胎児奇形発生が問題となりうるが、国際放射線防護委員会は100mGy以下の胎児被曝では統計上有意となる奇形増加がないと結論づけていて、骨盤部を直接CTで撮影した場合でも、胎児がこの量の被曝を受けることはまずないとされている。


4:MRI (核磁気共鳴画像法magnetic resonance imaging
原理
原理
電磁波を人体に当てると、人体に含まれるHイオンが振動する。振動はずっと続くわけではなくて、しばらくすると止まり、もとに戻る。このときエネルギーが放出され、そのエネルギーを検出すると体の中のHイオンがどのように分布しているか調べることができる。(Hイオンが多く含まれている箇所ほど、放出されるエネルギーの総量が多くなるため)検出したエネルギーを画像化したものがMRIである。
すなわち、組織内の水素原子1Hの信号を見て画像化したもの。

T1強調画像とT2強調画像
T1強調画像
  主に,解剖学的構造,すなわち,どのような組織がどのような形状をしているかを,比較的高い分解能で示す画像。
T2強調画像
  主に,病変部を描出する画像で,病変が起こった部分が,高い輝度で現れる。

MRIの特徴
  放射線被曝がない。
  非侵襲性である。
  矢状断面像、横断面像、冠状断面像など任意方向の断面像が撮像できる。
  軟部組織のコントラストがよい。
  組織の形態情報が得られる。
  生化学的な機能情報が得られる。
  生体内のプロトンに関する情報からの画像構成のため、骨によるアーチファクトがない。
  血管像や血流情報が造影剤を用いずに得られるので、MRアンギオグラフィができる。
  さらに、造影剤なしで脳脊髄膜腔や胆管、膵管を描出できる。

MRIとCTとの比較
X線CTとMRIの原理は全く異なるものの、同じ輪切り画像検査として、よく比較の対象となる。
X線CTはMRIに対して以下のような利点と欠点を持っていると言える。

X線CTの利点
  検査が短時間。
  空間分解能が高い。
  磁気を使用しないので金属(心臓ペースメーカー等)使用者にも施行可能)。
  アーティファクト(画像の乱れ)が少なく、広範囲の撮影が可能。
  騒音や閉塞感が少ない
  普及率が高く、相対的に安価である。

X線CTの欠点
  放射線被曝がある。
  軟部組織の組織学的変化があまり反映されない。
  脳底、下顎などの骨に囲まれた部位でアーティファクトが出やすい(近年の機種では改善されてきている)。
  造影剤副作用の頻度はCT用のヨード造影剤において高い。
  非常に大まかには、骨疾患や肺疾患、消化管疾患、出血などの救急疾患の場合には、CTが有用なことが多い。
  一方で、脳腫瘍や子宮・卵巣・筋肉などの疾患において、MRIの軟部組織分解能が威力を発揮する場面が多い。

MRIによる放射線被曝
前述のごとく、MRIによる放射線被曝はない。


5:PET(陽電子放射断層撮影 positron emission tomography)
原理
原理
陽電子検出を利用したコンピューター断層撮影技術である。
ポジトロン(陽電子)を放出する特殊なブドウ糖(FDG薬剤:フルオロデオキシグルコース)(ポジトロン薬剤PET薬剤ともいう)
を体内に注入して、薬剤が臓器などの器官に集まる様子・代謝される様子をPET装置で撮影する方法。
PET装置は、人体の周囲を取り巻くように配列された多数のガンマ線検出器と、2個の光子の信号を組み合わせる同時計数回路からなる。

特徴
CTやMRIが主に組織の形態を観察するための検査法であるのに対し、PETはSPECTなど他の核医学検査と同様に、生体の機能を観察することに特化した検査法である。
主に中枢神経系の代謝レベルを観察するのに用いられてきたが、近年、腫瘍組織における糖代謝レベルの上昇を検出することにより癌の診断に利用されるようになった。
患者への被曝量はCTに比べて少ないが、医療スタッフの被曝量に注意が必要である。

PETの応用
脳機能
脳内での神経活動が高まるとその部位で代謝量や血液流量が増大するので、捉えたい指標に合わせて上に述べたトレーサーを選んでやれば、間接的に脳内で活動が活発になっている部位を特定することができる。
グルコース代謝量を測定したいときにはトレーサーとして18F-fluorodeoxy glucose (フルオロデオキシグルコース、FDG) を主に用いる。
脳血流量や酸素代謝量を測定したいときにはトレーサーとして、15Oでラベルした15O2やH215Oを主に用いる。
他にもアルツハイマー病の診断に有効ではないかと期待されている。

癌診断
癌組織の多くがブドウ糖代謝が活発なことを利用している。
検出感度の良くない悪性腫瘍もある。胃癌の一部(signet-ring-cell cancer)、細気管支肺胞上皮癌、肝細胞癌、脳のような生理的にブドウ糖代謝の旺盛な組織における悪性腫瘍、腎細胞癌を含めた腎尿路系(FDGは腎から排泄されるため)などである。
腸管や炎症巣への生理的蓄積、良性腫瘍などが偽陽性となることがある。

PETによる放射線被曝
患者の被曝量
被曝線量はPET検査を1回受けた場合、1~3mSv(アイソトープ協会では2.2mSV程度)であるといわれている。
PET検査での被ばくにより急性の放射線障害が起こることは、まずあり得ない。



2 放射線治療と被曝
放射線療法( irradiation therapy)について
放射線療法とは
放射線が持つ電離作用を悪性腫瘍を制御する目的で照射すること。
放射線治療(放射線療法)は外科手術、化学療法、ホルモン療法などと組み合わされ、集学的治療の一環として利用される場合もある。

放射線治療の分類(放射線源と標的との位置関係による分類)
外部照射治療 (external beam radiotherapy; XBRT) もしくは遠隔照射治療 (teletherapy)
身体の外からの照射であり

近接照射治療 (brachytherapy)
通常、挿入した密封線源を治療後に摘出する。

密封線源 (sealed source radiotherapy) あるいは非密封線源放射線治療 (unsealed source radiotherapy)
身体の内部に放射性物質を入れ込む治療

装置
リニアック(X線, 電子線)・・・最も多く用いられる放射線治療機器
  ノバリス(X線):特殊なリニアック装置

  サイバーナイフ(X線):定位照射に用いられる特殊なリニアック装置
        ガンマナイフをさらに進化させた治療器がサイバーナイフと呼ばれる。
        自由な位置と角度から弱いX線を患部の1点にコンピュータ制御のロボットにより集中して照射。
        2台のX線透視用カメラが患者の動きをモニターし,ビームを補正する。

  トモセラピ-(X線):特殊なリニアック装置
         放射線照射装置にヘリカルCTの原理を応用したもの。
         放射線ビームをらせん状に回転させながら患部のみ正確に照射する。

コバルト照射装置(γ線)・・・リニアックへの置換が進んだため日本国内ではあまり使用されない
  ガンマナイフ (γ線):定位照射に用いられる特殊なコバルト装置
       201個のコバルト60の線源をヘルメットのような形状に並べる。
       これらの線源を精密にコントロールし、病変部にピンポイントでガンマ線を集中照射する。
       (精度は0.2~0.5mmくらい)

医療用加速器(陽子線、重粒子)
  加速器としてはシンクロトロンあるいはサイクロトロンが使用される。
  シンクロトロンは陽子線あるいは重粒子線用、サイクロトロンは陽子線用として用いられている。

  
適応症
通常、放射線治療(放射線療法)の適用となる疾患はケロイド、甲状腺眼症など一部の良性疾患と、ほぼ全ての悪性腫瘍である。

悪性腫瘍と放射線治療
また、放射線治療(放射線療法)は外科手術、化学療法、ホルモン療法などと組み合わされ、集学的治療の一環として利用される場合もある。

適応疾患
   乳癌  前立腺癌  肺癌  結腸直腸癌  脳腫瘍  頭頸部癌  喉頭癌および咽頭癌
   子宮頸癌などの婦人科の癌   膀胱癌  膵臓癌  悪性リンパ腫 など

照射量 照射回数
照射量
腫瘍制御に必要な線量は、腫瘍の感受性により異なる。

   固形がん(扁平上皮癌、腺癌など)
      60~70Gy(グレイ Gray; 放射線の項を参照)かそれ以上が必要である。

   高感受性のリンパ腫(白血病)など
      総線量で20~40Gyで腫瘍制御が充分可能とされる。

分割照射
現在、定位手術的放射線治療 (Radiosurgery) を除いて1回照射法は少なく、小線量を1日1回、週4~5回照射する分割照射が多く行われる。
分割照射の場合、一回線量は1.8~2Gyが経験的に多く用いられる。
一回の用量を小さくして繰り返し実施することは、正常細胞が成長しなおす時間を与え、照射で与えた障害を回復させる。
生物学的効果線量 (biological effective dose) は同じ総線量でも一回線量の大きさ(分割回数)、照射期間により左右される。

放射線治療の副作用
放射線治療は局所療法であり、抗腫瘍効果および正常組織の副作用は、基本的に照射された領域にしか生じない。
これが全身療法であり全身に副作用が生じる化学療法(抗癌剤治療)と最も異なるところである。
従ってて全身状態が芳しくない患者にも適応可能となる。

急性反応
主に粘膜・上皮細胞の障害で多くは一過性。
具体的には、照射野皮膚の灼熱感や発赤、胃・消化管粘膜炎による嘔気や嘔吐など。

晩期反応
治療が終了してから6ヶ月~数年経過後に生じる反応。
主に間質細胞・血管内皮細胞の障害。

正常組織の反応は照射体積の大きさが重要であり、定位放射線治療(いわゆるピンポイント照射)のように、小体積の病変に対して高線量を照射する照射法では障害は少ない。
これに対し、大きな体積の照射では、低線量でも重篤な反応を示すので、一回線量を少なくするなどの工夫が必要となる
密封小線源治療の副作用には埋め込み手術に関連したものも加わる。


1:放射線照射と被曝量
  外部照射
固形がん(扁平上皮癌、腺癌など)の用量は60~70Gyかそれ以上が必要である。
高感受性のリンパ腫(白血病)などは総線量で20~40Gyで腫瘍制御が充分可能とされる 

術前照射
癌が大きすぎて切除が困難な場合,手術前に照射することでがんを縮小させ,切除範囲を小さくして患者の負担や後遺症を軽減させるという目的で行われる。
また,手術前に,病巣付近の肉眼ではわからない微少ながん細胞を死滅させておくという目的もある。
たとえば直腸がんでは手術前の骨盤照射によって,術後の再発率を低下させることができる。
多くの場合、30Gyが照射される。

術中照射
術中照射は,手術で癌を切除した後,隣接臓器に再発する危険性がある場合などに,肉眼では確認できない微少な癌を死滅させるために用いられ、手術中に病巣部に一回の高線量照射が行われる。
開腹した状態なので,正常細胞への照射リスクを軽減でき,副作用も低下させることができる。
この術中照射はすい臓がんや胆管がん,直腸がんなどで行われる。

術後照射
術後照射は,手術で癌を切除した後,取り残した可能性のある微少な癌の再発を予防する目的で行われる。
乳がんの乳房温存療法がこれにあたり、放射線で再発を防ぐことができるため、切除範囲が最小限ですむというメリットがある。
また,通常の方法では切除できない部位にまで癌が拡がっている場合、切除可能な部位だけを切除し,切除できなかった部位を放射線で治療するという方法もある。
 
密封小線源治療
密封小線源治療には腫瘍の内部に直接線源を置く組織内照射と,食道や気管,子宮などの管腔臓器に放射線線源を置いて照射する腔内照射とがある。
この密封小線源治療では入院が必要な場合もある。
放射性ヨード(ヨード125、ヨード131)、ストロンチューム89、イリジウムなど放射性同位元素が用いられる。

組織内照射
主に頭頸部,前立腺,子宮頸部,卵巣,乳房,肛門周囲や骨盤領域の腫瘍を治療する際に用いられる。

腔内照射
アプリケーターを用いて体内に線源を挿入する。
この方法は上咽頭がん,食道がん,胆管がん,子宮がんなどに用いられる。
 

2:IVR (画像支援治療:Interventional Radiology)
  IVRとは
エックス線透視や超音波像、CTを見ながら体内に細い管(カテーテルや針)を入れて病気を治す治療法。
画像支援治療あるいは、血管系のIVR手技が血管内手術、カテーテル治療などと呼ばれることもある。

IVRの種類
血管(Vascular)IVR
   動脈塞栓術(TAE)  リザーバー留置術  静脈塞栓術  経皮的血管拡張術(PTA)
   ステント留置術  ステントグラフト留置術   血栓溶解術   血管内異物除去術   TIPS

非血管(Non-vascular)IVR
   生検  胆管ドレナージ  膿瘍穿刺ドレナージ  経皮的腎瘻造設術  結石除去術
   ステント留置術  胃瘻・腸瘻造設術  ラジオ波熱凝固術   経皮的椎体形成術

IVRによる被曝
IVRによる被曝患者被曝
患者被曝において問題となるのは、放射線皮膚障害である。
皮膚障害の程度は、紅班から皮膚壊死まで様々であるが、一定の線量(しきい値)を超えることによって発現し、重症度は照射された放射線量に依存する(確定的影響。
従って、皮膚障害の程度から照射された線量を推測できる。
また、症状の発現までには、表の如く潜状期間があることに留意しておかねばならない。
重篤な皮膚炎、皮膚壊死をきたしているIVR手技は、PTCA(ステント留置を含む)、心臓のRFアブレーション(不整脈治療)がほとんどで、 放射線科医が関与した例としては、2回のTIPS(総手技時間12時間以上)後の皮膚潰瘍、7ヶ月間に4回のTAEを施行した後の放射線皮膚炎などの報告がある。
TAEによる患者の平均的被曝量は、日本血管造影・IVR学会放射線防護委員会の調査では、患者の右背部の皮膚面で平均973mGy(最大3543mGy)であったとされる。
カテーテル挿入に時間がかかる症例で短い間隔でTAEが繰り返されれば皮膚障害が起こり得る。
表 皮膚障害におけるしきい線量と発現までの時間
 発現症状  しきい線量  発現までの時間
 一過性の初期紅斑  2Sv  数時間
一過性脱毛   3Sv  3週間
 紅斑  6Sv  10日
 永久脱毛  7Sv  3週間
 乾性落屑  10Sv  4週間
 湿性落屑  15Sv 4週間 
 皮膚壊死  18Sv 10週以上 
潰瘍   20Sv 6週以上 

IVRにおける術者被曝
術者被曝は、職業被曝の一つであり、ICRP勧告によって年間の線量限度が定められている。
1990年勧告では実効線量が年平均20mSv(5年間で100mSvまで)と厳しくなり、本邦でも2001年4月から取り入れられている。
唯一文献的に報告されている術者の障害は水晶体の混濁で、オーバーチューブ装置を用いてのIVRを眼の防護なしで行っていたケースである。
眼の被曝線量は450~900mSv/年と推定され、年間の等価線量の限度150mSvをはるかに超えていた。
後述の防護対策にあるように、IVRではオーバーチューブ装置を用いるべきでないが、どうしても使わざるを得ない時には防護眼鏡が必須である。
また術者の手、足の皮膚の線量限度は500mSv/年であるが、手に直接X線を浴びるなどのことがなければ、限度を超えることはない。



3 核医学と被曝
核医学とは 
核医学とは
放射性同位元素(radioisotope; RI)やその化合物の生体内(in vivo)や試験管内(in vitro)の挙動を追跡し、診断・治療を行う医学分野である。

核医学検査
核医学検査においては、放射性を放出するアイソトープを含んだ薬品(放射性医薬品)を使って、ガンマカメラで体内の状態を検査する。アイソトープ検査、RI検査ともいわれる。

核医学における検査・計測条件と目的による分類
 in vivo(インビボ)
    非密封RIを体内に注射し、各種臓器の機能や動態を直接計測する。
 in vitro(インビトロ)
    生体から採取した血液や尿などからホルモンなどの微量物質を生体外で測定する。
    甲状腺機能亢進や甲状腺ガンの治療を行う。


核医学検査
核医学検査の特徴
原理
ごく微量の放射性物質(ラジオアイソトープ:RI)を含む薬を用いて病気を診断する検査。
この微量の放射性薬剤が注射などにより体内に入ると、特定の臓器(骨や腫瘍など)に集まりそこから放射線を発し。
この放射線をガンマカメラ(シンチカメラ)と呼ばれる特別なカメラで体外から測定し、その分布を画像にする。
これをシンチグラフィという。

利点
この検査の特徴は臓器の位置や大きさの他に機能が分かるという点である。
X線検査やCT検査などは主に臓器の形の異常をとらえるのに対して、核医学検査は臓器の働き(機能)をとらえることができる。
そのため非常に鋭敏な検査であり、他の検査では分からない病気を見つけることもある。
苦痛も無く副作用も非常に少ない検査で、多くの病気の診断に利用されている。

被曝量
核医学検査では、1回におよそ0.2~8ミリシーベルトの放射線を被曝する

骨シンチグラフィー
使用RI
テクネチウム99mTc   99mTc-MDP     370MBq~740MBq 

適応・目的
骨折、骨の炎症、癌が骨へ転移していないか、その他の骨の病気について行う検査。
この検査は注射した薬剤が、骨の代謝や反応が盛んなところに集まる性質を利用して、骨腫瘍や骨の炎症、骨折の有無などを調べる。
乳癌、肺癌、前立腺癌など治療前・治療後の経過確認する上で欠かせない検査でもある。
X線検査よりも早期に発見する事が出来、また、疲労骨折や骨粗鬆症に伴う骨折の診断においても有用である。

ガリウムシンチ
使用RI
ガリウム67Ga  67Ga-citrate(クエン酸ガリウム)    74MBq~111MBq

適応・目的
悪性腫瘍が疑われたとき、高熱が続き炎症の部位が特定できないときに行う検査。
ガリウムが腫瘍や炎症に集まる性質を利用して、全身及び各部位の病巣の有無・進行状況を調べ、他の検査と総合的に診断して、治療法を選択する。
また、治療後の効果判定・再発を確認するためにも有効である。

心筋シンチグラフィー
使用RI
    Tl            111-148MBq    心筋血流検査(負荷時・安静時)
    99mTc-Myoview   296+740MBq    心筋血流検査(負荷時・安静時)
    99mTc-MIBI      600MBq       心筋血流検査(安静時)
    99mTc-PYP      740MBq       急性心筋梗塞検査(負荷時・安静時)
    123I-BMIPP      111MBq       心筋脂肪酸代謝検査(負荷時・安静時) 
    123I-MIBG      111Mbq        心臓副交感神経検査(負荷時・安静時)

それぞれの薬剤の検査には役割があり、目的に応じて使い分けられる。
検査によっては心電図をつけた状態行う検査や負荷を行うときに運動を行うもの薬剤を使用するものなどもある。

適応・目的
心筋梗塞はないか、血流の少ないところはないか、心筋は正常に動いているか、心臓の働きを果たしているかなどを調べる検査。
心臓の冠状動脈が急に詰まると急性心筋梗塞になり、運動した状態で血流が乏しい状態が続くと虚血性心疾患になってしまう。
このような状態を未然に防ぐため、また把握するために行われる検査で、心筋梗塞後の心臓の治療効果判定、心不全における度合い・予後評価なども検査することができる。

脳血流シンチグラフィー
使用RI
99mTc-ECD   600MBq     123I-IMP   111MBq

適応・目的
脳梗塞はないか、脳の血流が少ないところはないか、血流の多すぎるところはないかなどを調べる検査。
脳血流シンチグラフィーは脳の各部位における血流状態や働きを見る検査で、CTやMRIではとらえられない早期の脳血管障害や神経症状の責任病巣などの検出、脳の機能評価に使われる。
脳血流に異常のでる病気で、脳梗塞、脳出血などの脳血管障害、精神疾患、てんかん、痴呆などの脳の病気の診断、病状の評価、治療効果判定に有用。


4 医療と被曝まとめ
   各種放射線医学における被曝量はおおむね以下の様になる。

  撮影方法 おおよその被曝量
検査  単純X線撮影 0.1~15mSv
 CT撮影 7~20mSv 
 PET 1~3mSv 
治療   放射線療法(外部照射) 30Gy~70Gy 
 IVR 1Gy~3Gy 
核医学  各種RI検査 0.2~8mSv 



参考資料
「必修放射線医学」 (南江堂 1999 高橋睦正)
「歯科放射線学」 (医歯薬出版)

「放射線の影響が分かる本」 (財団法人放射線影響協会 )

「Radiation Dose Associated With Common Computed Tomography Examinations and the Associated Lifetime Attributable
 Risk of Cancer」
 ARCH INTERN MED/VOL 169 (NO. 22), DEC 14/28, 2009
 Rebecca Smith-Bindman, MD; Jafi Lipson, MD; Ralph Marcus, BA; Kwang-Pyo Kim, PhD;
 Mahadevappa Mahesh, MS, PhD; Robert Gould, ScD; Amy Berrington de Gonza´ lez, DPhil; Diana L. Miglioretti, PhD

「インフォームド・コンセントに有用なCT被曝実効線量把握の試み」
 (株式会社日立メディコ MEDIX VOL.51 渡部 茂高橋 大輔)

「歯科X線撮影における件数および集団線量の推定 1989年」
   (歯科放射線 1991;31.285-295.丸山隆司,岩井一男,馬瀬直通,他)

「X 線診断による臓器・組織線量,実効線量および集団実効線量」 
   (RADIOISOTOPES.1996;45.761-773 丸山隆司,岩井一男,西澤かな枝,他)

「Radiation exposure of patients undergoing whole-body dual-modality 18F-FDG PET/CT examinations」
 (J Nucl Med 2005 Apr;46(4):608-13 [No.05318] G. Brix, U. Lechel, et al)

Div Med Radiat Hygiene & Dosimetry, Fed Office Radiat Protection, Germany
「新編教養物理学」 (学術図書出版社 1985 原島鮮 )
「チャート式シリーズ 新物理II」 (数研出版 1978 力武常次)

社団法人日本放射線技師会 「医療被ばくガイドライン2006(低減目標値)」
Wikipedia 「放射線障害」 「放射線被曝」 「放射線障害」 「放射線医学」

      
医療と放射線
東北関東大震災により,甚大な被害を受けられた全ての皆様に,心よりお見舞い申し上げます。
また被災地において,懸命に救援活動にあたっておられる関係の皆様に感謝と敬意を表します。


放射線医学とは
放射線を用いた診断や治療等を中心とした医学の一分野で、大まかに以下の三つに分類される。
 1:放射線診断学
   電離放射線(X線など)、超音波、核磁気共鳴などを用いて、疾患による形態上の変化を画像化し診断に用いる医学
   の一分野。

 2:放射線治療学
   癌治療の一環として、放射線が持つ電離作用を悪性腫瘍を制御する目的で照射する方法。
   特別な理由により、正常な組織へ照射を行い、機能を低下もしくは停止させる目的での照射もある。

 3:核医学
   放射性同位元素(radioisotope; RI)やその化合物の生体内や試験管内の挙動を追跡し診断・治療を行う分野である。

医療被曝とは
放射線医学において、放射線を利用した診断及び治療の医療行為によって受ける被検者及び患者の被曝を医療被曝という。
検査の条件によって変わるが、胸のX線集団検診(間接撮影1回)で約0.05mSv、胃のX線集団検診(1回)で約0.6mSvの被曝になる。
医療被曝は、X線などの体外被曝と核医学などによる体内被曝とがあり、被曝線量は個人によって被曝の条件が異なるためその評価は困難であるが、国民線量(集団線量)への寄与は自然放射線によるものに次いで大きく、人工放射線のなかでは最大である。
医療被曝は障害防止法上での線量等の算出から除外される。