歯科診療とX線装置
デンタル撮影(口内法)
  デンタル撮影とは
デンタル撮影法とは、写真フィルムを口の中に入れて外部からX線を照射して撮影する方法である。
デンタル撮影では、それぞれの歯ごとに撮影する。

デンタル撮影装置
X線装置
基本的にはX線発生部、コントロールボックス、アームより構成され、投影角度を三次元的にヘッドを動かして決める必要があるため、操作性の面から軽量・小型化されている。
一般医療用X線装置と異なり、容積と重量の制約などによって光錐指示器や可動絞りを装備できないため、固定式の絞りが採用されている。
また、歯科用X線装置では、使用管電圧において適切な焦点-皮膚間距離を保つためのスペーサーコーンまたは照射筒が取り付けられている、また、このスペーサーコーンは、X線の方向指示と照射野径の指標の役割もしている。
     管電圧  60、70kV      管電流  6mA
デンタル用撮影装置      デンタルレントゲン写真
        

被曝量
被曝の特徴
デンタル写真の撮影は照射野が狭く、また,体幹部の方向に利用線錐が向く撮影でなければ,体幹部の被曝は少ない。
下顎大臼歯撮影では照射野に近接する甲状腺の被曝線量が大きく,実効線量で1撮影あたり約24μSv で,最も大きい値である。その他の部位では4~24μSv である。

被曝量
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パノラマ撮影(口外法)
  パノラマ撮影とは
歯科の診断や治療は、歯および歯周組織だけでなく、顎骨や顔面領域まで及ぶ広範囲な疾患をも対象としている。
歯科パノラマX線撮影法では、形態的に湾曲した顎骨を展開した像として撮影することができる歯科独特の撮影法である。
開口せずに撮影できるので、開口障害がある場合には口内法X線写真に変わる有効な情報源となる。

パノラマ撮影装置
スリット状X線ビームを回転させて顎骨の展開像を得る撮影法である。
   パノラマ用撮影装置        パノラマレントゲン写真
               

被曝量 
被曝の特徴
X線が上方8度の角度に照射されるため、デンタル撮影よりも被爆する組織が頭部のみに限定される

被曝量
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歯科用CT 
  歯科用CTとは
歯科に特化したCT装置である。
デンタルCT、あるいはコーンビーム方式を用いているため、コーンビームCT(CBCT)とも言う。
主にデンタルインプラント、親知らずの抜歯、矯正歯科症例で見られる埋伏歯、などの歯科治療・診断に用いられているが、耳鼻科疾患に用いられることもある。
三次元の高画質画像を用いることで、断層方式パノラマエックス線撮影法や口内法エックス線撮影法では判別できない、痛みや症状の原因がわかることがある。 
        管電圧  60、70kV      管電流  6mA

医科用CTとの比較
医科用のファンビーム方式のCTと比較して、以下のような利点・欠点がある。

利点
  装置がコンパクトで安価。
  空間分解能が高い(0.1mmオーダーでの診断が可能)。
  金属アーチファクト(画像の乱れ)が少ない。
  短時間で三次元画像を構築できる。
  座ったまま撮影できるため閉塞感がない。

欠点
  撮影範囲が狭い。  CT値を適用できない。  画像にノイズが多い。 

歯科用CTの被曝量
歯科用CTの被曝量は少ないと言われるが、照射野を広げると被曝量は増大する。 



2 歯科用X線撮影と被曝量
歯科用撮影と臓器
  被曝対象組織
最も被曝線量すなわち実効線量に影響する臓器・組織は頭頸部にある甲状腺や脳などの線量である。

また赤色骨髄や直接線のあたる皮膚の被曝はもっとも大きな2~4mSv であるが、その範囲はほぼ50㎠(照射野直径約8cm として)に限られ,人間の体表面では1.5㎡の0.4%以下である。
皮膚がんリスクが皮膚面積の割合に比例すると,皮膚の実効線量における寄与は甲状腺より小さくなる。

また、皮膚と同様に、白血病に関係する赤色骨髄の実効線量における寄与は頭頸部の赤色骨髄重量では成人の場合で全身の約10パーセントであり,少なくなる。

唾液腺は大きな線量を受けるのであるが放射線による影響は少ない。

他の重要な臓器・組織には食道、胃、結腸などの消化管、肺、乳房さらに遺伝的影響の起こる可能性のある生殖腺(精巣、卵巣)が体幹部にあり、非常に低線量の被曝であるため、実効線量におけるこれらに臓器・組織への寄与は低い。
そのため体幹部を防護するエプロンでは約20パーセント程度の減少しか得られない。

胎児への被曝は極めて低線量であること(生殖腺線量0.03~0.08μSv)から、生殖腺の線量はほとんど測定限界以下にまで低下し,遺伝的影響は考えられなくなる。

デンタル撮影とパノラマ撮影の被爆対象臓器の組織線量

デンタル・パノラマ撮影時の臓器・組織線量(μSv/1撮影)
臓器・組織 上顎大臼歯 下顎大臼歯 パノラマ
皮膚  3600.0 3400.0 400.0
脳  12.6 31.0 26.0
唾液腺  200.0 2100.0 820.0
甲状腺  194.0 2420.0  233.0
1.1 8.0 1.7
赤色骨髄  14.5 3.5 15.1
生殖腺    0.03 0.08


歯科用X線撮影による被曝量(実効線量)
  X線フィルムを使用した通常の撮影法の場合(アナログ方式)

デンタル・パノラマ撮影における実効線量
(μSv/1撮影) 上顎 下顎
デンタル撮影  大臼歯 18μSv 24μSv
小臼歯 12μSv 6μSv
犬歯 9μSv 4μSv
切歯 10μSv 6μSv
平均 12μSv  10μSv 
パノラマ撮影 11-20μSv
胸部X線撮影    300μSv

   出典  丸山隆司,岩井一男,馬瀬直通,他5名 「歯科X線撮影における件数および集団線量の推定」
                    1989年.歯科放射線.1991;31.285-295 

デジタル撮影の場合
デジタルレントゲンとは
X線センサーとしてCCDセンサーあるいはイメージングプレートが用いられ、得られたX線情報をコンピュータ処理をして画像化する。

デジタル撮影の場合の被曝量
アナログ方式の1/5から1/10の被曝量であるとされている。
したがって、理論的には1撮影1-2μSvとなる。
歯科用デジタルレントゲンシステム




参考資料
「必修放射線医学」 (南江堂 1999 高橋睦正)
「歯科放射線学」 (医歯薬出版 1982 古本啓一 )

「放射線の影響が分かる本」 (財団法人放射線影響協会 )

「Radiation Dose Associated With Common Computed Tomography Examinations and the Associated Lifetime Attributable
 Risk of Cancer」
 ARCH INTERN MED/VOL 169 (NO. 22), DEC 14/28, 2009
 Rebecca Smith-Bindman, MD; Jafi Lipson, MD; Ralph Marcus, BA; Kwang-Pyo Kim, PhD;
 Mahadevappa Mahesh, MS, PhD; Robert Gould, ScD; Amy Berrington de Gonza´ lez, DPhil; Diana L. Miglioretti, PhD

「歯科X線撮影における件数および集団線量の推定 1989年」
   (歯科放射線 1991;31.285-295.丸山隆司,岩井一男,馬瀬直通,他)

「X 線診断による臓器・組織線量,実効線量および集団実効線量」 
   (RADIOISOTOPES.1996;45.761-773 丸山隆司,岩井一男,西澤かな枝,他)

「新編教養物理学」 (学術図書出版社 1985 原島鮮 )
「チャート式シリーズ 新物理II」 (数研出版 1978 力武常次)

社団法人日本放射線技師会 「医療被ばくガイドライン2006(低減目標値)」
Wikipedia 「放射線障害」 「放射線被曝」 「放射線障害」 「放射線医学」


      

歯科医療と放射線
歯科用X線と被曝
歯科X線検査時には、デンタル法(口内法)やパノラマ法で撮影する。
その1枚のX線写真を撮った場合、撮影部位に対応してそこからの散乱線が全身に当たると想定し、その線量を評価すると患者被曝線量は実効線量当量にしておおよそ6~24μSvと報告されている。
これは自然放射線による被曝の2.5~7日分となる。(1日の世界平均自然放射線量=6.63μSv)
胸部間接撮影について同様な計算をすると44日分となる。
世界的評価による医療放射線による年間の平均被曝量は460μSvと報告され、これは自然放射線70日分に相当する。