A:いじめについて(いじめ総論)
 (1)いじめの定義
@森田洋司・清水賢二著 「新訂版いじめ」 金子書房、1994年による定義
 「同一集団内の相互作用過程において優位にたつ一方が、意識的に、あるいは集合的に、他方に対して精神的・身体的苦痛をあたえること」 

A東京地裁八王子支部平成3年3月27日判決  判時1328
 学校及びその周辺において、生徒の間で、一定の者から特定の者に対し、集中的、継続的に繰り返される心理的、物理的、暴力的な苦痛を与える行為を総称するものである。
 具体的には、心理的なものとして、『仲間はずれ』、『無視』、『悪口』等があります。
 物理的なものとして『物を 隠す』、『物を壊す』等がある。
 暴力的なものとして『殴る』、『蹴る』などが考えられる 

以上の事を簡約すると以下のように要約出来ると思います。
  1:自分より弱いものに対して一方的に行われる。
  2:身体的・心理的な攻撃が継続的に加えられる。
  3:それによって、相手が
深刻な苦痛を感じているもの。

ここで再確認しておきたいことが在ります。
それは、「いじめ」「犯罪」は異なるということです。
被害者の立場からすると、「暴力をふるう」が行われたら、これは犯罪として対処すべきだと思います。
尚、刑法犯に該当する場合には、多くが非親告罪で、未遂でも罰せられる事が有ります
たとえば、最近のネット上での犯行予告は、脅迫罪、威力業務妨害罪、偽計業務妨害罪、軽犯罪法に抵触し、ほとんどが逮捕あるいは補導されています。 (参考リンク:「ネット掲示板 犯行予告 事件一覧」
加害者に対しても、しっかりと、この事は身をもって教えておくべきではないでしょうか。


 (2)いじめの種類

いじめには、大きくわけて3つのやり方があります。
@物理的な力(暴力等)によるもの
  1)暴力行為を伴ういじめ
 繰り返しになりますが、ここで注意しなければならないことは、暴力行為というものは単なるいじめではなく、犯罪行為であるということです。暴行罪、傷害罪が適用されます。
 少年法というものが在りますが、これは罪に対する罰を成人と少年で区別しただけのもので、決して罪が変わるものではありません。
 暴力を伴ったいじめでは肉体的・精神的ダメージが大きくなります。
例えば、小突く・押す・つねる・叩く・殴る・蹴るなどの行為が伴います。
 本で頭をはたく、髪の毛を引っ張る、ほうきや傘などで叩く、また“プロレスごっこ”と称して首をしめるなどの非常に危険なものもあります。
  2)物品を取る、隠す、壊す
 被害者自身だけではなく、被害者が所有する物品に何らかの事をする場合があります。
 自転車を壊す、自転車の鍵を取る、靴を隠すなどがこれに当たります。
 これらの行為も、立派な犯罪です。

A言葉、文字によるいじめ
 言葉の暴力とよく言われますが、これも場合によっては刑法上の罪(刑法230条:名誉毀損罪、刑法231条:侮辱罪)に問われる事があります。
  1)『悪口』をいう
 「チビ」、「デブ」など身体的特徴を揶揄するような言葉や、「臭い」、「汚い」など人を侮蔑する言葉でからかう。
 嫌がるニックネームで呼ぶなどです。
  2)『笑い者にする』
 人と少しでも違うことを大袈裟に取り上げて、バカにしたり笑い者にするようないじめです。
「悪口をいう」とも似ていますが、集団が1人を対象にする場合が多いようです。
 身体のどこかにハンディキャップがある、勉強ができない、あるいはよくできる、とても些細な違いをきっかけにすることがよくあります。

  3)『悪いウワサを流す』など
 「○○は、万引きしたらしい」、「○○は覗きをしてるらしい」などの良くないウワサを流すこともあります。
(これらの話を公衆の面前で話すことは、たとえ話の内容が事実であろうとなかろうと、名誉毀損罪にあたります。)

B無視をする
 仲間はずれにしたり、話かけても聞えないふりをして無視するといったいじめです。
 人間は孤独では生きられない動物であると言われるくらいです。
 その子の存在を否定する行為が続くため、精神的ダメージが大きいのに加えて、指導する学校側もなかなか解決しにくいと言われています。

 (3)いじめの原因
いじめの原因とは何でしょう?。
社会の歪み、教育の歪みなど様々な事が言われています。
しかし、いじめが昔からあった事実を知れば、これは「人間の本質」から生じている行為だと考えるべきではないでしょうか。

@いじめ原因の本質
 トマス・ホッブス(1588年-1679年、イギリス)は、主著「リヴァイアサン」のなかで次のように述べています。
 『リヴァイアサン』より−
 人間は自己保存(生命維持)の欲望を追求する利己的な存在である。
 利己的な欲望を追求する無制限な自由を、人間の「自然権」という。
 万人が自由に自然権を行使すれば、人間は人間に対してオオカミとなり、「万人の万人に対する戦い」が生じる。
 それは逆説的に、自然権を阻害してしまう結果をもたらす。
 そこで、自己保存の破壊を禁じる「自然法」が理性の中に内在している。
 自然法が自然権を抑制することによって秩序が保たれる。
 さらに、社会契約を結ぶことで、各人の自然権を確固たるものにする事が出来る。
 
 難しい言い回しですが、自分が生きるために、他人を排するのが人間の本質であるということです。
 いじめの原因の本質もここから来ているのかも知れません。
 しかし、それを抑制する理性が在るはずです。
 その理性が欠如すれば、いじめが発生することになります。

Aいじめの原因 
 では、上に記した様な理性を保つためにはどうすれば良いのでしょう?。
 やはり、家庭でのしつけ、学校での教育が肝要だと思われます。
 そう考えると、家庭環境、学校の体制、社会構造の損傷が現代のいじめの原因なのではないでしょうか。

 「子どもは天使」だと言われますが、本当にそうでしょうか。
 ある意味において、子どもは天使に為り得る悪魔です。
 悪魔を天使に変えうるのは、本来は親あるいは大人の責任であると思います。
 今、その大人達が壊れています。
 勿論、一部の大人でしょうが、その再教育も必要に思います。
 問題は、再教育を誰が行うかということです。
 少なくとも、これは学校の先生方の仕事ではありません。
 政治を含めて、社会全体が担わなければ為らないと思います。

 
 (4)いじめが行われる場所・機会

いじめの最多発場所といえば、やはり学校ということになるでしょう。
いじめの多くは、学校にいる間やその登下校の途中で行われます。
単純に考えれば、「子どもがたくさん集まる場所」です。
裏を返せば「子どもが集まるところにいじめ有り」と思っておくべきかも知れません。
帰宅後に学校以外の場所に呼び出されるようなケースもありますが、これも学校の延長と考えるべきでしょう。

@いじめが行われる場所
 1)学校
   小・中学生は必ず学校に通わなければなりません。
   従って、ここでのいじめが一番多いのに加えて、一番問題になります。
   逃げることが出来にくいからです。
 2)スポーツの場
   スポーツ少年団や、課外クラブなどもいじめの多発場所です。
 3)その他
   塾、英会話教室など。

Aいじめが行われる機会
 いじめが行われるのは、人目につかない場所,、あるいは人目に付かない時間です。
 例えば人の出入りが少ないトイレ、校舎や体育館の裏、更衣室の奥、通学路などが多いようです。
 傍観者(いじめを見て見ぬふりをする人)が多ければ、教室で生徒が大勢いる前でも、先生や大人がいない時を狙って行われます。
 教室で行われる場合は、休み時間や放課後など、先生が教室を離れているときがほとんどです。
 すなわち「いじめを抑制する人が居ない時」にいじめは発生します。

 

(5)いじめ加害者の特徴
@いじめ加害者(いじめっ子)の特徴
 
1)子どもの気質的特徴

   1:過去にいじめられた経験がある。
   2:何でも自分の思い通りにしたい、他人までも思い通りに支配したい。
   3:ストレス解消のために憂さ晴らしをしたい。
   4:自分の劣等感から人をねたんで、落としいれたい。
   5:いじめられた子が「どんなに傷ついているか」がわからない。
   6:グループの中で「いじめないと、お前もひどい目に遭うぞ」と脅迫されている。
 2)家庭の環境的特徴
   1:放任された家庭
   2:攻撃的な家庭
   3:「何でもあり」の家庭

Aいじめ加害の理由
 1)意図的にいじめている場合
   1:快楽を求めるもの
     人をいじめること自体に快楽を見出すもの。
     ストレス発散など、他の要因が複合している場合も多い。
   2:ストレス発散を求めるもの
     加害者が、欲求を満たされない場合や、抑圧的な環境に置かれている場合などに発生する。
     加害者の置かれている抑圧的な状況を解消することで、いじめが収束することもある。
   3:自分の力を誇示しようとするもの
     他人をいじめることで、自分の力を再確認し、満足を得ようとするものである。
     相手を支配し、常に上位者であろうとする。
     力の誇示は、欲求を抑えられない幼児性を示すものである。
   4:未知の者に対する恐怖に基づくもの
     よく知らない個人・集団に対し、偏見や思い込みから恐怖感を抱き、いじめにつながる場合がある。
   5:ねたみによるもの
   6:加害者が何らかの劣等感を持っている

 2)意図の乏しいいじめの場合

   1:対人関係能力の欠如に基づくもの
     人とのつきあい方が分からない者が加害者になる場合である。
     粗暴であったり、他人に無関心であったりすることが、結果的に相手に苦痛を与えることになる。
   2:加害者に追随しているもの
     中心となる加害者の行為を傍観したり、自らもそれに加担したりする場合である。
     保身のため、自分がいじめの対象にされたくないという理由で、加害者に加担することも多い。

(6)いじめ被害者の特徴
@いじめ被害者(いじめられっ子)の特徴
 1)身体的特徴
   1:身体が小さい
   2:動作が機敏でない
   3:身のまわりが衛生的でない子
 2)性格的特徴
   1:友達が少ない(概ね一人で居ることが多い)
   2:おとなしい子(いじめられても反撃しない)
   3:おだやかで誰にでも優しい
   4:口達者でませている

Aいじめ被害に遭っているときのサイン
    いじめ被害に遭っていても、周囲の誰もがそれを知らないことも多いです。
    いじめ被害者は必ずしもそれを訴えるとは限りません。
    周囲の親や、教師がまずそれに気づかなければなりません。
 1)身体的・物理的変化
   1:身体に傷がある。
   2:よく下痢をする(ストレスによる過敏性大腸炎)
   3:夜泣き、おねしょをすることがある。
   4:服や学用品が汚れたり、破れたりしている。
   5:物品がよく紛失する。
 2)心理的・行動的変化
   1:最近元気がない、または、異常に明るい。
   2:学校に行きたがらない、朝になると頭痛や腹痛が起こったりする。
   3:家族と話すことを避ける。 
   4:絶えずおどおどして、落ちつきがなくなった。

 以上の様なことがあれば、「いじめ」に遭っている可能性も大きい考えるべきではないでしょうか。
 その時には、家庭内だけで悩まないで次の手段を考え、対処の準備をする事が必要です。
 「子どもの最大の味方は、親」あるということを常に忘れてはいけません。



B:いじめと法律  (詳細は、「いじめに関する法律・法規」へ)
 (1)被害者を守る法律・法規
本来、「いじめ」などという行為はあってはならないものです。
被害者は守られなければならないのです。
これは、倫理上の観点からだけではなく、各種の法的根拠によって示されています。
  @被害者を守るための法律・法規
  A加害者を罰するための法律・法規
  B学校側が遵守しなければならない法律・法規      

 (2)いじめと犯罪の違い
いわゆる「いじめ」である場合には、強権を行使することはできにくいと思われます。
これらに対しては粘り強い指導や話し合いで解決していくべきものであるかもしれません。
しかし、暴行や恐喝は紛れもなく「犯罪」であり「いじめ」とはまったく性質が異なるものです。
従って、対処法(犯罪被害者を直ちに救い出す強権発動が必要)にも違いが在ります。
それなのに、教育現場や教育行政では、暴行や恐喝までも十把一絡げに「いじめ」に含めてしまう傾向があります。
そのために「犯罪」への対処がおろそかになってしまい、不幸な結果がもたらされている場合も在るのではないでしょうか。
これでは不幸な被害者を救い出すことはできない。
「いじめ」と「犯罪」を厳格に分離し、犯罪対策を徹底的に強化するべきであると思われます。。

 (3)犯罪となるケース
@刑法上の犯罪
 現実的に行われているいじめの行為が、以下に当てはまる場合には、それは犯罪として対処すべきです。 
  1)殺人罪
     傷害致死や自殺教唆に思われるものでも、「未必の故意」による殺人罪として立件されることもある。
  2)傷害致死罪 :集団によるリンチによって、被害者が死亡したような場合。
  3)自殺教唆罪 :自殺を促す(とびおりろ、など)。
  4)暴行罪・傷害罪 :殴る、蹴る、刺す、縛る。ナイフで刺すふりをする・ナイフを見せる。
  5)脅迫罪 :言葉や態度で脅す。。
  6)強要罪 :性行為(自慰、売春など)の強要、常々いじめられる者同士を喧嘩させる、使い走り。
  7)恐喝罪・強盗罪 :暴行や脅迫による金銭・物品の要求や強奪。
  8)強姦罪・強制わいせつ罪 :衣服を剥奪する・脱衣を強要する、性器の露出・それらへのいたずらや攻撃。
  9)名誉毀損罪・侮辱罪 :盗撮、中傷。中傷ビラの頒布。
  10)器物損壊罪 :被害者の所持品に落書きする・隠す・捨てる・壊す。
  11)窃盗罪 :被害者の所持品を盗む。
  12)犯罪の教唆(実行犯と同罪) :万引き(窃盗)など財産犯、その他の犯罪行為の強要。

C:いじめと学校  (詳細は「いじめと学校」へ)
 (1)学校でのいじめと学校側の責任
小・中学生は、必ず学校に通わなければなりません。
そこでいじめが行われているならば、必ず解決されなければならないことです。
平成18年11月29日に教育再生会議から出された緊急提言でも、「学校でいじめが起こらないようにすること、いじめが起こった場合に速やかに解消することの第1次的責任は校長、教頭、教員にある」としています。

 (2)学校側の責任に対する考え方

いじめ問題は、学校側に責任の在ることを否定できるものではありません。
しかし、この問題はひとり学校側のみによって防止できるものでもないのも事実です。
目的は、学校に全て責任を転嫁して学校側の非をとがめるのではなく、学校に解決の責任が在る事をを自覚させ、いじめをなくすための手段として利用することです。
そのためには学校、家庭、社会が相互に協力しながら解決へと動かなければなりません。
      目的=いじめの根絶
      手段=学校側にいじめ解決の義務が在ることを認識してもらうこと
 

















 「いじめ」に関する基礎知識

いじめは昔から在ったと言われています。
しかし昔のものと今のもの間には、やはりいくつかの相違点があるように思います。
陰湿化、隠蔽性、長期化等が現代のいじめの特徴です。
さらに、いじめの加害者と被害者がゲーム感覚のように容易に入れ変わりうることも昔との相違点と考えられます。
そして、そのいじめによって極めて不幸な事態が起こっているのも憂慮すべき事です。

いじめが非常に良くない行為であることは多くの人が十分に認識している事だと思います。
では何故いじめが無くならないのでしょうか・・・・。


 A:いじめに関する基礎知識 (1)いじめの定義  (2)いじめの種類  (3)いじめの原因  (4)いじめの場所・タイミング  
(5)いじめ加害者の特徴  (6)いじめ被害者の特徴

 B:いじめと法律  C:いじめと学校  D:いじめの対処法  E:いじめ相談窓口リスト

 参考リンク
   リンク1:総務庁アンケート結果(H10・4月)  リンク2:少年犯罪データーベース(いじめ事件)
   リンク3:日本の子供達(いじめ生徒間事件に関する裁判)    リンク4:島根の教育研究会(教育関連法規)